平壌放送のアナウンサーがいくら反っくり返っても、彼の言うことは空威張りに聞える。威張れば威張るほど、内容の空疎さが透けて見える。だがテヘラン放送は、ちょっと違う。昔話とはいえ彼らは、前六世紀から前四世紀にかけ古代オリエントを統合したペルシア帝国の残照を背負っている。 金日成=金正日の父子は、米ドル紙幣の贋造と覚醒剤密輸で稼ぐ小帝国を作った。ダレイオスとクセルクセスの父子は、スケールが違う。文字通りの「大王」だった。前者は大軍を率いてボスポラス海峡を渡り、ヨーロッパに攻め入ったが、マラトンで敗れ、その報は一人の走者によって南へ四十キロのアテネにもたらされた。後者は再び古代ギリシャを攻め、テルモピュライの嶮に拠るスパルタ王レオニダスを撃破した。 昔、ギリシャからトルコ、シリア、イラクを経てテヘランまで車で走ったとき、私はペルシア帝国の版図の壮大さに、ただ呆れた。しかもモンゴル帝国の遺跡が大草原の中に雲散霧消したのに反し、ペルシアは帝都ペルセポリスの遺構を残しているのである。 今日なおオリンピック競技の最後には、マラソン走者が捷報を運んだのと同じ距離を走る。ヨーロッパ文明はいまもペルシアを記憶し、記憶の底には一抹の恐怖がある。そのペルシア、今日のイランが巨大な遠心分離機を発注し、濃縮ウランの増産へ突っ走ろうとしている。

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