ロシアの「偏愛」で分裂するドイツの憂鬱

執筆者:斎藤義彦2007年3月号

前首相はすっかりプーチン大統領に取り込まれてしまった。外務省も同様。メルケル現政権は踏んばるが、ロシアの“資源を使った脅し”は募る。[ベルリン発]「私はドイツが好きだ」。ロシアのプーチン大統領は、昨秋、ドイツ東部の大都市ドレスデンを訪問した。イスもない粗末なパン屋に突然立ち寄り、コーヒーを頼んで見せ、市民を驚かせた。大統領にとってドレスデンは第二の故郷と言える。旧ソ連国家保安委員会(KGB)の将校だった一九八五年から九〇年まで、東ドイツに暮らした。ドイツ語を学び、スパイ活動の拠点としたこの街は、次女が生まれた地でもあり、思い出が深い。「大統領はドイツに今でも特別な感情を持っている」と独外交筋は話す。 ただ、大統領が表明するドイツへの愛情の裏には冷徹な打算がある。大統領は友好国フランスに加えドイツを盟友とし、露仏独の「枢軸」を形成。イラク戦争を進めた米ブッシュ政権への対抗軸にした。「深すぎる愛情」は、世界の多極化を目指す戦略にも基づいている。 また、ドイツは欧州連合(EU)の大国で、ロシアの一番の貿易相手国でもある。地理的にもエネルギー供給の大切な出口に位置する。ドイツを取り込めば、ロシア国境に向け拡大してくるEUの「脅威」も御しやすい、との読みがある。ドイツは最も重要なターゲットなのだ。

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