イギリスのブレア首相は『フォーリン・アフェアーズ』二〇〇七年一月―二月号に、「グローバルな価値をめぐる闘い」と題する論説を寄稿している。この論説は、9.11事件以来、そしてイラク戦争や二〇〇五年七月七日のロンドン地下鉄テロ事件以来、何度も行なわれてきた、イスラーム主義による国際テロリズムの挑戦に対して決然と対峙することの必要性を説く演説を集大成したものといってよい。 ブレアが強調するのは、この問題は警察的・行政的な個別的テロ対策のみで解決し尽くせる問題ではなく、根底にある価値観の対立に踏み込んでいかなければならない、という認識である。ブレアの認識によると、宗教的過激主義の奉じる理念と、西欧に端を発して世界に広まった近代的な自由と人権の理念との間にこそ対立が存在し、それゆえ紛争が生じているのであり、この紛争で敗れることは、欧米社会を成り立たせている枢要な価値や規範を譲り渡してしまうことになる。現在争われているのは「政権転覆」ではなく「価値転覆」なのであり、〈究極には近代性をめぐる闘いである〉という。〈私の見るところ、我々が直面しているのは戦争である。しかし通常とは全く異なる戦争であり、通常の手段では勝利できない戦争である。軍事力だけでなく、価値の水準で勝利しない限り、グローバルな過激派に対する戦いに勝利することはない〉

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