「医療事故」と「警察」と「医師法21条」

執筆者:髙本眞一2015年1月31日

 医師法21条: 医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

 この医師法21条に関する解釈をめぐって、長年、医療界では議論が続いてきました。大きなきっかけとなったのは、手術終了後に看護師が消毒液を血液凝固阻止剤と取り違えて点滴し、58歳の女性を死に至らしめた、1999年の東京都立広尾病院の事件です。この事件では、遺族が病院責任者らに死亡原因を問うも、解剖結果などにより誤薬注入とは断定できないという回答を繰り返したため、遺族の不信をかい、両者の関係はこじれました。そして遺族の強い要求を退けきれずに、病院側はようやく事故を警察に届け出ました。
 その後、刑事捜査が進み、2000年に病院関係者が起訴され、点滴ミスをした看護師2人に業務上過失致死罪で有罪判決が下るとともに、主治医も異状死体届出義務違反の略式起訴で罰金2万円と医業停止3カ月処分となりました。

 そのとき、院長も虚偽有印公文書作成行使と医師法違反で起訴されたのですが、院長は「異状死は24時間以内に警察に届けねばならない」とする医師法21条は日本国憲法第38条で規定された自己負罪拒否特権(自分に刑事訴追・有罪のおそれのある事項については供述を拒むことができる特権)に反するとして無罪を主張しました。しかし、2004年、最高裁は医師法21条について「犯罪発見や被害拡大防止という公益が高い目的があり、また届出人と死体との関連の犯罪行為を構成する事項の供述までも強制されるわけではなく、捜査機関に対して自己の犯罪が発覚する端緒を与える可能性になり得るなどの一定の不利益を負う可能性は(人の生命を直接左右する診療行為を行う社会的責務を課する)医師免許に付随する合理的根拠のある負担として許容されるべき」であるから合憲として有罪が確定したのです。

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