フランス高出生率のヒミツ

執筆者:大野ゆり子2007年3月号

 パリ症候群という病気があるそうだ。憧れてパリに住み始めたものの、フランスの習慣や文化にうまくなじめず、精神的にバランスを崩し、鬱病に近い状態になってしまうことだそうで、年間百人ぐらいの日本人が、この症状に悩まされているという。 私自身のパリ滞在初日も最悪であった。地下鉄に乗っていると、扉のそばで、隣の人が「Quelle heure est-il?」と話しかけてきた。フランス語が話せなかったくせに、これはNHKフランス語会話で聞いた「何時ですか」の意味だな、などと迂闊にも反応してしまった。馬鹿正直に腕時計を見て、片言の作文を始めている間に、時間を知りたがっていたはずの男が、発車寸前に降りてしまった。そこで初めて気づいたが、かばんが空いていてお財布がない。 しょんぼりと駅の警察に盗難届を出しに行ったところ、男と女の警官が、何かいい雰囲気になっていて、相手にしてくれない。それでも話しかけると、切れ長の目の婦人警官は、「あなたって無粋ね」と言わんばかりの一瞥をこちらにくれ、被害届を投げてよこした。 友人の英国人は、パリのホテルの浴室で転び、耳を切った。緊急に夜間診療に行って、耳を縫うことになったが、その最中に、医者の男性と看護婦の間で、激しい口論が始まった。うつぶせになった友人が、切れた耳をそばだてて聞いた会話によると、二人は不倫関係らしいという。男の態度に業を煮やした女が男を詰るという、よくある場面だが、医者は耳を一針縫うごとに、看護婦との関係のほころびも縫い、手術が終わるころには、二人はまた、熱い仲だったそうだ(後日談だが、彼がロンドンで術後経過を見てもらったところ、主治医に、素晴らしい技術だが、一体誰が執刀したのかと聞かれたという)。

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