ITや自動車などの新興産業ばかりが注目されるインドは、生乳生産量世界一、サトウキビや米、小麦も同第二位という一大農業国でもある。国内総生産(GDP)に占める農業の比重は二〇%弱だが、総人口の三分の二に当たる約七億人が農村部に暮らすため、ひとたび不作に陥ると各地で消費が減退し、経済成長に大きなブレーキとなる。深刻な旱魃で農業部門がマイナスとなった二〇〇二年度のGDP成長率は全体で三・八%に落ち込んだほどで、農業の好不調はインド経済の行方を大きく左右する。 しかし、農業の基盤は極めて脆弱だ。潅漑普及率は全インド平均でわずか四〇%。多くの農民が雨水頼みの粗放経営を展開している。保冷倉庫や農道などの整備が遅れ、収穫された作物の三〇%以上が消費地に届く前に傷んで廃棄されているという調査結果もある。 シン首相率いる現政権は、政治的配慮もあって当初から農業部門へのテコ入れを鮮明にしてきた。二月末に発表した〇七年度予算案でも、農家向けの融資目標を前年度比一八%増の二兆二千五百億ルピー(約六兆円)に引き上げ、農村の社会保障拡充や公的天候保険の導入など多くの農業振興策を盛り込み、巨額の肥料補助金や優遇税制も温存した。

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