カリモフ「異例の居坐り」が黙認される理由

執筆者:松島芳彦2007年5月号

 ウズベキスタン北部国境チェルニャエフカの検問所には、迎えのバスが来る日曜日になると千人近い男たちがひしめく。カスピ海の石油資源開発で好景気に沸く隣国カザフスタンへの出稼ぎ労働者だ。ウズベキスタンの経済成長率は七%だが、近い将来三千万人をうかがう人口急増で、伝統的な綿花栽培だけでは労働力を吸収できない。富は独裁者イスラム・カリモフ大統領(六九)の一族や側近人脈に偏在し、一般の人々の暮しは貧しい。 カリモフの任期は一月二十二日に切れたが、大統領選挙は今年十二月二十三日まで予定されていない。統制下にあるウズベキスタンのメディアは沈黙しているが、カリモフの法的地位には強い疑義がある。しかも、既に直接選挙導入後二期目の任期が満了、憲法規定では次期大統領選挙に出馬する権利もない。それでも、十七年にわたって独裁体制を敷いてきた男が政権を去る気配はない。 モスクワの外交筋は「カリモフ政権が今崩れれば、イスラム原理主義の台頭、貧困や政治弾圧に不満を蓄積させている市民の暴動など、流血を伴う相当の混乱が予想される。それはキルギス、タジキスタン、アフガニスタンという各隣国へと広がり、中央アジア全体の動揺につながる」とみる。アフガニスタンでのタリバン復活の動きを警戒する米国も、国内イスラム勢力への刺激や大量の難民を恐れるロシアや中国も、このシナリオは望まない。人権弾圧を批判しつつも、カリモフ政権の延命を容認せざるを得ない状況なのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。