「EU型調整外交」の成果と限界

執筆者:斎藤義彦2007年5月号

「調整・提案型」外交でじわりと存在感を増すEU。加盟国間の分裂の危機にも時として晒されながら、米国とは違う形の外交を模索する。 ドイツ南部の都市ミュンヘン。今年二月、プーチン露大統領は、欧米の有力政治家が集まる安全保障政策会議に初めて出席し、米国を厳しく批判した。きっかけは米国のポーランド、チェコへのミサイル防衛網の配備計画だ。これをロシアに対する挑発と受け取った大統領は、米国の軍事行動を「危険」と批判。ミサイル防衛網を突破する「対策を講じざるをえない」と対抗心をむき出しにした。会議に出席していたゲイツ米国防長官は、「冷戦は一つでたくさんだ」と応戦。ミサイル防衛網は「ロシア向けではない」と反論した。 欧州連合(EU)議長国・ドイツは仲介に奔走した。三月、メルケル首相は「(米露間の)亀裂は避けるべきだ」と発言する。公の場で「独りよがりな行動では何も得られない」と強い調子で米国に対話を促し、訪米したシュタインマイヤー独外相を通じてライス国務長官にロシアの懸念を伝えさせた。首相自身もブッシュ米大統領と水面下で直接交渉。米国が中心的な役割を果たす北大西洋条約機構(NATO)がロシアと会合を持つ際、米露が直接話し合うことを承諾させた。

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