いま中国で飛び交う「小冊子」の破壊力

執筆者:藤田洋毅2007年6月号

秋の共産党大会を前に、反指導部勢力の声が大きくなっている。しかも、それは公式ルートに乗って……。 いま、中国の幹部宅に、さまざまな小冊子が舞い込んでいる。そのうちの一冊が手もとにある。〈理論を大刷新する際は、学習が大切だ。「和諧(調和の取れた)社会」は、しっかり学んだか? 六つの特徴がとても美しく響く/民主法治、公平正義、誠信友愛……/でも、なぜ公有・私有の経済は誰が主体で誰が主導するのか、提示しないのか/きっと私有化の中で和諧を語り、社会主義は旗印(にすぎないの)だろう「科学的発展観」は、しっかり学んだか? 五つの統一をちゃんと憶えた/都市と農村の統一、地域間の統一……/でも、いかに貧富の格差を統一し、労働者や農民がますます弱くなるのを転換させるのか、知らない/きっと唯物史観は科学ではなく、階級闘争は過ちだったのだろう「新農村建設」は、しっかり学んだか? 五つの目標を暗誦できる/生産の発展、裕福な生活、新たな農村文明……/でも、なぜ多様な(所有形態の)合作や集団化の道を捨て去ったのか、知らない/きっと、少々の恵みを(農民に)施して、あの手この手で資本主義をもてあそんでいるのだろう〉 党の政策・スローガンを徹底的に皮肉り、めった斬りにする言葉が続く。作者は、最有力長老だった故李先念・国家主席の副首相時代の秘書で、のちに国家統計局長(一九八一―八四年)を務めた李成瑞(八六)。経済思想は故陳雲・党中央顧問委員会主任直系、政治思想は毛沢東譲りとされる古参幹部だ。三月の全国人民代表大会(全人代)で通過した、私有財産の保護を定める「物権法」反対の急先鋒として署名活動を展開するなど、依然、旺盛な言論で知られる。

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