名門ながら赤字続きの「不肖の子会社」を切り離せるか。大詰めを迎えた売却交渉の成否は、松下そのものの今後にも大きく影響する。「仮定の質問にお答えすることはできない」。四月二十七日、松下電器産業が都内で開いた二〇〇七年三月期決算の説明会。社長の大坪文雄が質疑応答で参加者の発言を遮るように答えた場面があった。質問は「(子会社の日本)ビクターを売却した場合、連結売上高目標は変わるのか」というものだった。 松下は「〇九年度に連結売上高十兆円達成」を経営目標の一つに掲げている。〇六年度は九兆千八十二億円。三年間で九千億円の増収は、日本の家電業界で勝ち組の代表格とされる松下といえども容易ではない。しかも、〇六年度の数字にはビクターの連結売上高七千四百二十七億円が含まれている。松下が計画している売却が成就すれば、目標の十兆円には、九千億円どころか、一兆六千億円あまりも不足する。 大坪は、年明け以降、ビクター問題について「何も決まっていない。お話しすることはない」と呪文のように繰り返してきた。決算説明の場でそれを蒸し返され、苛立ちを隠しきれなくなったのだ。 当初の予定では、この決算説明会までに売却交渉はまとまっているはずだった。松下が米投資会社、テキサス・パシフィック・グループ(TPG)に優先交渉権を与えたのは、この三月中旬。当初は〇六年度内の決着を目指したが間に合わず、ビクターもしくは松下の決算発表までにまとめるよう変更された。それも先送りされたのは、交渉の最終段階でTPGがごねたからだ。現在に至ってなお破談の可能性すら残り、交渉の行方は極めて不透明だ。

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