ブラウン政権が目指す「移民の価値観」の転回

執筆者:マイケル・ビンヨン2007年8月号

[ロンドン発]ロンドンの繁華街ピカデリーサーカス近くのナイトクラブ前に駐車したベンツには、携帯電話を使った遠隔操作式の爆弾が積まれていた。第一報に接したイギリスの多くの人々の最初の反応は、「またしても……」というものだった。続いて人々は、爆発していれば何百人もの死傷者がでていたかもしれないテロが、奇跡的に未然に防がれたことに安堵の息をついた。 ガソリンの臭いを漂わせ、煙を出す不審な車に気づいたのは、別の任務で出動していた二人の救急隊員だったことから、民間の警備員や一般の人々も含め、引き続きテロに対する警戒を怠らないことの重要性が強調された。 事態は急展開した。翌六月三十日にはスコットランドのグラスゴー空港に爆薬を満載したジープが突入して炎上。現場に残された複数の携帯電話から、ロンドン警視庁はテロリストのネットワークを突き止めた。その結果、首謀者たちがイギリスの公立病院で働く医師だったことがわかると、さすがに人々は衝撃を隠すことができなかった。 誰よりも衝撃を受けたのは、イギリスに暮らす百八十万人のイスラム教徒だ。彼らにとっては衝撃は二重のものだった。ひとつには、何の罪もない男女を標的にしたテロ行為を企てたのが、またもイスラム教徒だったこと。そして第二に、彼らの多くが医師や医療関係者だったことだ。十世紀、十一世紀、イスラム教の医師たちが医学の進歩に大きく寄与したことはイスラム教徒の誇りだった。実際、医学と哲学の進歩に最盛期のイスラム教が与えた影響は他のどの宗教よりも大きいかもしれない。

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