勘違いしないほうがいい。参院選の結果を読み誤り「優しい政府」に舵を切れば、日本経済にいずれ重いツケがのし掛かる。 崖っぷちの安倍政権(Abe at Bay)。七月の参院選がもたらした民意のうねりは自民党の屋台骨を揺さぶり、安倍晋三首相を窮地に追い込んだ。年金不信、地域格差、政治腐敗、閣僚失言――。敗因については多く語られている。でも分からない。日本経済がバブル崩壊後の長期停滞を脱したその局面で、何故、突然死のような敗北が自民党を襲ったのだろうか。 二〇〇三年四月には金融危機に怯え八千円を割っていた日経平均株価は、選挙前には一万八千円に回復していた。経済成長率は二%の巡航速度で、失業率も四%を下回った。「成長を実感に」と訴えた安倍首相や中川秀直自民党幹事長の気持ちに、偽りはなかったろう。だが有権者の安倍自民党を見つめる眼差しには、一種の敵意があった。「悪しき政府にとって最も危険な時期とは、一般に自ら改革を始めるそのときである」。こんな分析はどうだろう。十九世紀フランスの自由主義的保守主義者トクヴィルの『旧体制と大革命』の一節である。トクヴィルは続ける。「ある悪弊が除去されると残った悪弊がいっそう際立ち、いっそう悲痛な感情を抱かせる」。低所得層の落ちこぼれや地域経済の疲弊は、日本経済が崖っぷちにあった一九九〇年代の方がもっと深刻だったはず。だが、経済が非常時を脱するにつれて人々の心に引っ掛かるようになったようだ。

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