「戦場で勝って戦争に負ける」日本の製造業

執筆者:五十嵐卓2007年9月号

今は世界をリードしていても、進む先には暗雲――。リスクを避けがちな日本企業の「深層心理」が、取り返しのつかない遅れを生みつつある。 日本の製造業の業績は今、絶好調といってよい。上場企業の連結経常利益は四年連続で過去最高を更新し、一九九〇年代に青息吐息だった鉄鋼など素材産業から造船、プラント、海運まで五、六年前には想像すら出来なかった利益水準に達している。「日本企業は九〇年代の失われた十年から完全復活し、新たな黄金期に入った」と誇らしげに語る経営者も今や少なくない。 確かに、人員削減、設備投資の圧縮、トヨタ生産方式に倣った様々な生産革新によって筋肉質になった企業は多い。九〇年代の危機感が製造業の体質改善の大きなきっかけになったことは事実だ。 日本の製造業の強さを象徴しているのは、トヨタ自動車、ホンダ、スズキなど自動車産業であることは衆目の一致するところだろう。トヨタは二〇〇七年三月期連結決算で、売上高が二十三兆九千四百八十億円、純利益一兆六千四百四十億円と日本企業では圧倒的、世界の製造業でも実質トップの業績をあげている。ホンダも新型ディーゼルエンジンの開発など技術的な先進性でトヨタにひけをとらず、世界におけるブランド力をますます高める。スズキのインド四輪車合弁、マルチウドヨグの成功は日本でもよく知られるようになった。

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