「三越と伊勢丹が経営統合を交渉」 メディアが一斉にそう報じたのは七月下旬のことだった。八月中の合意を目指して交渉に着手、との報道もあったが、原稿執筆時点では統合比率やトップ人事は白紙のまま。三越は自力再建や伊勢丹以外との連携も模索しているとみられ、今後の見通しは流動的だ。 百貨店業界全体の売上高(二〇〇六年)は七兆七千七百億円。市場規模は十年間で一兆円以上縮小した。少子高齢化時代に生き残るには(納品業者との値引き交渉などを有利にする)規模の追求が必要との解説がなされるが、店舗ごとの品揃えが違う百貨店で統合によるコスト削減効果は限定的ともいえる。 それでも店舗地域や顧客層の重複が少ない「理想型」とされる三越と伊勢丹の組み合わせは、実際には「伊勢丹による三越の救済」の色彩が強いという。本誌五月号で指摘されていたように、三越はジリ貧状態だった。売上高は二期連続でマイナス。さらに今期も減収を見込み、買収ファンドも触手を伸ばすなか、今年春から「救済計画」が動き出した。 三越のメーンバンクである三井住友銀行は、グループの投資銀行業務を担う大和証券SMBCに救済策を練らせた。白羽の矢が立ったのは優良経営で知られる伊勢丹だった。両者は呉服屋から始まり、ブランドにも高級感が漂うなど共通項も多い。伊勢丹の武藤信一社長は再編論者であり、高校の後輩である三越の石塚邦雄社長とは個人的に親しい。経営統合にはもってこいの相手だった。

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