中欧の小国スロベニアと聞いてもピンと来ない人が多いだろうが、スポーツ愛好者ならスキー板やヨットのメーカーとして評価が高い「エラン」で思い出すのではないか。 この人口二百万人の小国が今年一月に欧州単一通貨ユーロを中・東欧諸国で先行導入した。欧州委員会が五月に「導入は大成功」と結論づけたように、独仏伊などの「先輩」と比べてもはるかに円滑だった。 国民への周知作戦を「全国民」ではなく「全住民」に定め、外国語版や点字版などの冊子も作成、全家庭に配布した。しかもユーロ導入時にお決まりだった便乗値上げをほぼ完全に阻止。便乗値上げが横行し市民生活を圧迫したイタリアなどとは様相が大きく異なったため、欧州委員会はユーロ導入予備軍にスロベニア詣でを推奨し、キプロス、マルタ、スロバキアなどが訪れている。 導入成功の背景は同国の歴史や欧州における位置づけを探ることで見えてくる。スロベニアはオーストリア・ハンガリー帝国の一部として、帝国が解体される第一次大戦まで、先進国だったオーストリアの薫陶を受けた。首都リュブリャナの旧市街の町並みはオーストリアの旧市街と見間違えるほどだ。 北のオーストリアと西のイタリアという列強に挟まれながら、国民意識は極めて合理的で実践主義に徹している。同国有力者たちも「我々はイタリアと違って秩序を重んじる」と主張する。

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