アルルへの熱き思いと日欧「文化受容」の誤差

執筆者:大野ゆり子2007年9月号

 南仏の公演のあいだに、かねてから行きたかったアルルの町を訪れてみた。アルルといえば、まずアルフォンス・ドーデ作の「風車小屋だより」の「アルルの女」が浮かぶ。 主人公フレデリは、二十歳になる村の旧家の長男で、一本気な青年。ある日、アルルの闘牛場で息をのむような美女を見かけ恋に落ちた彼は、あの女と結婚できないなら、いっそ死にたいとまで思いつめ、日に日に衰弱していく。母は心配のあまり、結婚を許そうと思うが、遊びなれたアルルの女には情夫がいた。かねてから息子に想いを寄せる純朴な村娘に、母は彼を慰めるように頼み、フレデリは家族に心配をかけまいと、村娘との結婚を決意する。町が守護聖人のお祭りに沸き返る中、結婚式を目前にしたフレデリは、アルルの女が情夫と駆け落ちすると聞き、嫉妬に狂って、高い窓から身を投げてしまう。 ジョルジュ・ビゼーが三十四歳のとき、この戯曲に数週間で劇音楽をつけたのだが、特に有名なのは、この地方の舞踊曲であるファランドールだろう。プロヴァンスの太鼓がリズムをきざみ、その上にフルートとクラリネットが、恋に浮かされたフレデリの熱っぽい心のようにメロディーを奏でる。お祭り騒ぎで沸き返る町と嫉妬の狂気が不可分になってクライマックスをむかえるこの曲は、学校の音楽の授業でもよく聞かされた覚えがある。

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