混迷続くレバノン 宗派主義体制の岐路に

執筆者:池内恵2007年10月号

 レバノン政治で混迷が続く。最大の争点は、十一月に任期の切れるラフード大統領の後任の選出である。大統領選出には一院制の議会(国民議会)で三分の二の得票が必要だが、政情は膠着状態で、選出の見込みは立たない。昨夏のヒズブッラー(ヒズボラ)とイスラエルの戦闘でヒズブッラーが政治的勝利を収めた勢いで、親シリア派は議会の三分の一の議席で得られる拒否権を振りかざし、議会であらゆる決定を不可能にしている。大統領と拮抗する権限を有するセニオラ首相と内閣は、ヒズブッラーをはじめとするシーア派の閣僚引き揚げによって正統性の危機に瀕している。 一方、首相と議会多数派の側も、シリアの関与が濃厚な二〇〇五年二月のハリーリー元首相暗殺をめぐる国際法廷の受け入れを推し進めて親シリア派を追い込もうとする。重要問題に関して大統領と首相の見解が食い違い、議会では次期大統領選出の手順にすら合意ができていない。一九七五年から九〇年の内戦の再来が危惧される展開である。 きわめて複雑な対立の陣営を大まかに色分けすれば「反シリア派の首相・議会多数派」対「親シリア派の議会少数派と大統領・国会議長」ということになる。 大統領選出をめぐる対立の前哨戦として、議会少数派は内閣改造による「挙国一致内閣」を要求しているが、言い換えると、これは内閣にも親シリア派を三分の一以上入れろという要求である。レバノンでは、憲法改正や国際合意など主要議題のことごとくに、全大臣の「三分の二以上」の賛成を必要とする。親シリア派が内閣の三分の一を占めればいっそう幅広く拒否権を獲得することになるだけに、セニオラ首相と反シリア派がこれを容認するのは難しい。

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