トルコが目指すイスラムと民主主義の共存

執筆者:山内昌之2007年11月号

トルコが実践しつつある「世俗的イスラム民主主義」確立への試みを、日米欧は理解し評価すべきだ。 トルコは、麻生太郎元外相が唱えた「自由と繁栄の弧」の構想において、ヨーロッパとアジアを結び、ロシアと中東とカフカースをつなぐ国際関係の要に位置する国である。そのうえ、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、イスラム諸国会議機構(OIC)や黒海経済協力機構(BSEC)といった個性的な国際機関でも中核の役割を果たすことが多い。イスラム世界とキリスト教国中心の欧州連合(EU)の双方に関わりをもち、中央アジアのトルコ系諸国にも影響力がおよぶトルコは、麻生外相の辞職とは関係なく、引き続き日本外交のユーラシア戦略にとって重視すべき国である。二〇〇六年の小泉純一郎首相の訪問だけでなく、〇七年の谷内正太郎外務事務次官によるトルコとインド訪問は、ユーラシア戦略におけるトルコの重要性を物語っている。 八月二十八日にトルコの国会において、もともとイスラム主義政党である公正発展党(AKP)の外相だったアブドッラ・ギュルが共和国第十一代の大統領に選ばれた。トルコ共和国史上初めてイスラム主義の伝統を引く大統領にほかならない。政治と宗教の分離は、一般的に民主主義の出発点といってよい。しかし、世俗主義の理念が必ずしも民主主義の原理と合致しない場合もある。イスラム世界のように、しばしば政教一致の観点から民主主義のあり方を論じる地域では、世俗主義と民主主義の二つの考えは対立しあうことも珍しくない。とくに初代大統領ケマル・アタテュルクこのかた世俗主義を国家の支柱としてきたトルコでは、二つの理想の間に独特な緊張関係が醸し出されてきたものだ。

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