中国のホテルにチェックインすると、フロントで正真正銘の「シングリッシュ」の洗礼を受けた。「シングリッシュ」とは、シンガポール人が操る英語のこと。福建語や広東語の強いアクセントが加味され、文法を超越して単語が徹底的に短縮された、独特の英語である。 経済特区アモイのホテルに、シンガポール人の従業員がいるのは何故か。尋ねてみると、数世代前の祖先がアモイ出身であったため、地縁と血縁を頼りにやってきたとの話であった。 日本人にとってアモイは、鄭和や鄭成功が活躍した古都として記憶されているはずだ。中国の都市名は日本語表記では普通は漢字が使われるが、福建省の港町アモイ(厦門)は、日本ではあまり使わない漢字でもあり、カタカナ表記されることが多い。 ニューヨークからロンドン、ジャカルタまで、世界中に居を構える華人は、その大半が福建省か広東省の出身者で占められている。前者であればアモイ、後者であれば香港から貨客船に乗り込み、新天地へと旅立っていったのだ。アモイは、世界中のチャイナタウンで活躍する華人の「ふるさと」だといっていい。 アモイにはアモイ大学と集美大学があるが、いずれもシンガポールで立身出世した「ゴム王」が私財を投じ、中国への恩返しにと建設したものだ。華僑博物館や華僑ホテルなど、市内の至る所に東南アジア系華人の資金力と存在感を示す建物が溢れる。これら東南アジア系華人と比肩する大きな存在感をもつのが、台湾人である。

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