一九五六年、ハンガリーとソ連の水球試合。ハンガリーチームの主力選手カルチが審判にボールを投げつけるシーンから映画は始まる。露骨なソ連贔屓の判定に怒りをぶちまけたのだが、そこには当時のソ連と“衛星国”ハンガリーとの主従関係が投影されていた。ハンガリーの水球チームは世界一の実力を誇っていたが、政治経済はもとより文化・スポーツに至るまで、社会主義の祖国であり“宗主国”であるソ連邦は常に優位でなければならなかったのだ。帰国したカルチは秘密警察から「ソ連に刃向かうな」と脅される――。『君の涙 ドナウに流れ―ハンガリー1956』は、この場面を入口に、日本では「ハンガリー動乱」と呼ばれる歴史的事件とその中で翻弄される個人の運命、そして悲恋を描いていく。 同年、ソ連でフルシチョフ共産党第一書記が「スターリン批判」をしたことで、ハンガリーの政治情勢は流動化。ソ連の傀儡政権に対する批判が学生から湧き起こり、労働者・市民を巻き込む大規模デモに発展する。動揺した政権は市民に融和的な首相を立てて収拾を図るが、やがて一度は引いたソ連軍が大戦車部隊でブダペストに侵攻、数日間の市街戦の末、市民側に数千人の死者を出してデモは鎮圧された。

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