日本とベトナムが手を組む「準・人身売買」

執筆者:出井康博2007年12月号

 午前八時、出発客で混雑が始まった中部国際空港。人ごみを避けるように、十人ほどのアジア系の若者が航空会社カウンター脇に集められている。帰国の途に就こうとしているベトナム人研修生たちである。 彼らは三年前に外国人研修・技能実習制度(以下、研修制度)で来日し、愛知県内にあるトヨタ自動車系の下請け業者で働いていた。研修生として入国する外国人の数は年に約十万人。これまでみてきたように、その実態は政府が表向きは受け入れを認めていない「単純労働者」で、最長三年間は日本に滞在できる。賃金は他の外国人労働者よりも格段に安く、人手不足と納入先からのコスト削減要求に悩む中小企業にとっては今や欠かせない存在だ。 久しぶりに故郷へと戻れる喜びからなのだろう。着慣れないスーツに身を包み、肩を組んで記念撮影する表情には笑顔が溢れる。 そんなほのぼのとした光景を、緊張した面持ちで見つめる日本人がいる。研修生の帰国を見届けるため付き添ってきた受け入れ関係者だ。 帰国直前の空港は、研修生が最も失踪しやすい場所である。給料を満額受け取り、研修中は取り上げられていたパスポートも手元に戻っている。日本の生活に慣れ、不法就労先を見つける程度のコネもある。見張り役の関係者は一瞬たりとも気が抜けない。失踪者が相次げば、研修生の受け入れ停止といった処分が科せられてしまうからだ。

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