国内で最悪六十四万人が死亡するといわれる新型インフルエンザ。対策を誤れば、それすら楽観的な数字になりかねない。首都の備えは? 東京都庁の展望室に足を運ばれたことがあるだろうか。二百二メートルの高さから東京の街を一望できるだけでなく、晴れた冬の日には西の方角に富士山の雄姿を望めることが多い。展望室があるのは第一本庁舎とよばれる建物なのだが、実は、そのはるか下層階にも展望室と遜色ない“眺望”がきく場所がある。 東京都防災センター。第一本庁舎の八階と九階の一部を吹き抜けにしたスペースだ。外界に面した窓はない。正面には二百インチの巨大スクリーンが二つかけられており、都庁の屋上やお台場のレインボーブリッジに設置したカメラがリアルタイムの街並みを映し出す。百人を超す関係部門の責任者用にしつらえた座席のどこからでも映像は鮮明だ。スクリーンの脇では地図表示板や状況表示盤が「出番」を待つ。首都・東京が危機に見舞われるや、この空間が対策本部室となるのだ。知事をはじめとする責任者たちは、刻々と変わる状況を把握しつつ、ここから対策を発し続けることになる。 日本で最も人口が密集した東京は「五つの危機」と隣り合わせている。首都直下地震、都市型水害、無差別テロ、大規模事故(爆発、脱線衝突、墜落、停電など)、そして新型インフルエンザなどの新興感染症だ。

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