中国「華南虎騒動」が露呈させたもの

執筆者:藤田洋毅2008年1月号

内陸部の省に脚光を集めた“四十三年ぶりの大発見”は、どうやら英雄と省政府の「創作劇」。暴露の決定打を放ったのはネットだった……。 午後八時ごろ、若い女性会社員が家路を急いでいたら、道端で四、五歳の男の子がしくしく泣いていた。声をかけても「家に帰りたい」と泣きじゃくるばかり。途方にくれたが、ふとズボンのポケットを見ると、住所らしき地名を記した紙切れが。子供の手を引き、何人にもたずね、たどり着いたのは地方から出てきた農民工らが集住するスラムだった。子供は記憶を頼りに、いくつもの路地を曲がり何度も間違えて、ようやく長屋風の一部屋の前で立ち止まり、指差した。ホッとした女性会社員が粗末な門鈴(呼び鈴)を押すと……。 気がついたのは、ほぼ六時間後の深夜、スラムから四キロほど離れた公園の片隅だった。財布や携帯電話、腕時計から首輪やブローチをつけた上着まで剥ぎ取られていた。通りかかったタクシーを説得し乗せてもらい帰宅。翌朝、公安局治安崗(派出所)に届け出た。係官はいった。「三人目ですね。門鈴には高圧電流が流れていて、一瞬で気絶したのでしょう。ただね、以前の二人もそうですが、あなたもどこの家か覚えていないでしょう? しかも、犯行に使う家は転々と移しているようですから、捜査しようがないのです。命があっただけでも幸運ですよ」。続けて「今後は注意してください。子供といえども軽々に信じないように」と念を押した。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。