『ザ・ジャパニーズ』エドウィン・O・ライシャワー著/國弘正雄訳文藝春秋 1979年刊(現在は古書としてのみ入手可能) ライシャワー博士の『ザ・ジャパニーズ』の國弘正雄氏による翻訳は、一ページ、二十六字掛ける二十二行、二段組みで、四百三十余ページに及ぶ大著である。 その分量だけから言っても、この書は、生涯を日本研究と日米関係に捧げられたライシャワー博士の畢生の大作であり、日本研究の古典として扱われてしかるべき本である。 ところが、私は今回改めてこの本に接するまで、その存在も知らなかった。 その理由の一つとして、この本が出版された一九七九年が、激動の年であったという背景がある。 一九七〇年代半ばは、世界中が、いわゆるデタント時代と呼ばれた、一時の偸安の夢をむさぼった時代だった。 それが一転するのがこの一九七九年という年である。 もうその年の夏ぐらいからソ連の急速な軍備拡張に警鐘が鳴らされ、年末のアフガン侵入以後は、冷戦最後の米ソ緊張時代に入り、翌々年からレーガン時代が始まる。日本周辺でもソ連地上軍が北方領土に配備され、極東ソ連海軍が急速に増強されて、日本の安全に危機感が漂う。 この本の一つのテーマでもある、六〇年、七〇年安保時代の泰平の倦怠の中に生まれた日本国内政治や日本人の心理分析などは、もう過去の問題でしかなくなっていた。

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