ロシアが原油価格下落に備え蓄積した巨額の「安定化基金」が、三月の大統領選でメドベージェフ第一副首相が当選してできるプーチン新体制で、政治抗争の焦点となりそうだ。 プーチン氏が大統領退任後のポストに首相を選んだのも、この莫大な基金の掌握と配分に好都合な位置であることを熟知しているためだ。 石油収入の一部を積み立てるこの基金は、石油価格高騰で膨張し、ついに千五百億ドルを超えた。経済危機の記憶が生々しいクレムリンは当初、手をつけない「聖域」としてきた。だが、石油価格の急落は当面ないとの見通しで気が大きくなり、昨年、対外債務返済に充てたのを皮切りに、政権を支える治安機関出身者が支配する政府系企業や福祉などに対して支出する方向が打ち出された。 基金は二月に従来の目的に使う「予備基金」と「将来の世代の富を守るため」と説明される「国民福祉基金」に分割される。後者は事実上、プーチン氏の一存で使途を選ぶことができ、大統領選前のばらまき福祉を含め有力な政治的武器となる。だが基金から支出を増やすとインフレを促すため、首相として経済政策を管掌するプーチン氏本人が失政の責任を問われる可能性もあり、もろ刃の剣といえる。

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