大富豪と大貧民がひしめきあう中国の実像

執筆者:藤田洋毅2008年2月号

度胆を抜かれるほどの金持ちに、給与ももらえぬ教師。矛盾は拡大する一方だ。広東省では新たな“実験”も始まったが……。 輝くシャンデリアの下、霜降り牛肉にワインをかけて焼く香りが漂う。小さな体育館ほどもある広いラウンジを抜けた奥の個室には、真ん中に畳一枚ほどの鉄板台、周囲にコックや給仕が控えていた。「さあ、どうぞ」と友人に勧められほおばったステーキは、二十年以上中国の牛肉を口にしてきた身にも驚くほどの美味だ。思わず「どこで生産した牛肉ですか、やはり合弁ですか」と聞くと、友人はあっさり「お国の神戸牛ですよ。私は世界一だと思います」。 BSE(牛海綿状脳症)のあおりで、日本産牛肉は二〇〇一年から輸入禁止のはず。コックが言った。「手荷物扱いで一人何百キロも持ち込むそうです。運び屋は日本留学中の中国人、旅行客を装った日本人など。転売利益が大きいから止めようがない。当店は、品薄になったことはありますが品切れになったことはありませんよ」。「この神戸牛の仕入れ値は」と尋ねると、「一キロ三千から四千元(約六万円)ですね」。マグロトロ刺身も、やはり運び屋が日本から持ち込んだという。 ラウンジに移ると友人はワインを傾ける。葉巻はキューバ産。温度と湿度を管理したガラス張りの小部屋の壁一面に、小さな引出しが並んでいた。友人専用の引出しには一本二百ドルの最高級品がそろう。北京市内のビルのワンフロアを占める会員制レストランは、発展中国の“成果”を映し出していた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。