昨年の参院選大惨敗で「立党以来」の危機に直面する自民党。存亡をかけた総選挙へ向け、態勢固めを急ぐ党のキーマンは二人だ。福田政権の発足に伴い、不遇をかこった小泉、安倍時代から六年ぶりに表舞台に復帰した古賀誠選挙対策委員長。もう一人は、安倍政権樹立に貢献、総務相、選対総局長を歴任し、さらに党内影響力の拡大を狙う古賀派の菅義偉選対副委員長。両氏はお互いに対する不信を抱えながらも、政権維持とそれぞれの思惑のため、とりあえず手を握り合っている形だ。
「次期衆院選で自民党単独で四百八十議席のうち(過半数の)二百四十一を取るのは大変な難しさだ」。古賀氏は一月六日、選挙地盤の福岡県広川町で開いた新年会で講演し、衆院選への危機感を率直に語った。
 古賀氏は昨年九月の選対委員長就任直後から全国行脚を開始し、年末までに党四役の地元などを除いた四十二都道府県連を訪問した。選挙戦で絶大な威力を発揮する公明党支部のほか、ほぼ全ての日程に自らの影響下にある遺族会や建設業協会との面談を組み込み、改めて自民党への支持を要請。地方からの要望は伊吹文明幹事長や谷垣禎一政調会長に伝え、予算編成に反映させるよう再三求めた。票固めには地方への配慮が欠かせないと判断したからだ。
 もう一つ、古賀氏の頭痛の種になっているのは、佐藤ゆかり氏と野田聖子氏が対立する岐阜一区をはじめ、二〇〇五年の郵政選挙で誕生したいわゆる「小泉チルドレン」らと、郵政造反組の議員が一つの選挙区に共存する調整区の問題だ。

部屋を譲った派閥領袖

 古賀氏は「勝てる候補」を公認とする方針で、調整を一任された菅氏は、独自の世論調査など客観的なデータを基に判断する考えを示している。「刺客」の長崎幸太郎氏が優勢とされる山梨二区以外の五つの調整区は、「いずれも造反組が刺客に差を付けている」(選対幹部)ため、チルドレンの処遇が焦点となる。
 だが、選挙区と比例代表で毎回交互に出馬するコスタリカ方式は原則として認められず、比例区での優遇も党内から強い反発が起こるのは必至だ。そこで古賀氏らは、候補者未定の「空白区」への移転を促しているが、北海道一区に名乗りを上げた杉村太蔵氏は地元が受け入れを拒絶。選対幹部からは「選挙区のないチルドレンは比例下位に回ってもらう」との声も出ている。
 ただ、チルドレンの産みの親である小泉純一郎元首相は今も高い国民的人気を誇っており、古賀氏らは警戒感を消せない。チルドレンを優遇しない方針を決めた昨年十二月の党選対委員会の翌日、小泉氏から菅氏に電話があった。内容は地元の神奈川県連についてだったが、菅氏は「かかってきたときはさすがにハッとした」と周囲に漏らしている。
 小泉氏はかつて「政治家は選挙ごとに使い捨てされることを覚悟せよ」とチルドレンらの会合で語ったものの、小泉氏の影響力を考えると「比例下位」という選択もできれば避けたいというのが古賀氏らの本音。古賀氏、菅氏らは昨年中としていた空白区の候補者選定を先延ばししたが、妙案は見出せていない。
 選挙の態勢固めでは協力関係にある二人だが、腹の底から信頼し合っているわけではない。〇六年の総裁選で、菅氏は早い時期に安倍氏擁立へ動き、安倍支持で党内が雪崩を打つのに先鞭をつけた。最終的に安倍氏を支持した古賀氏が、当初は福田擁立を模索していたことを知りながらだ。さらに〇七年の総裁選でも菅氏は、古賀氏と犬猿の仲として知られる麻生太郎前幹事長の推薦人に名を連ね、派閥の領袖である古賀氏の意向に逆らって見せた。
 もともと派閥への帰属意識が薄い菅氏は、古賀氏が推進する谷垣派との合流についても、「次の党総裁選で麻生氏を応援するなというなら俺は加わらない」と公言している。古賀氏にすれば面白いはずがないが、それでも直前まで選対総局長だった菅氏にそのまま部屋を使うことを許し、自分はより狭い別室に入る配慮を見せた。ある政界関係者は「麻生氏と関係の良い菅氏を取り込むことで、麻生氏をいざとなれば古賀派が担ぐ総裁候補として押さえておく狙いがある」と解説する。
 次期衆院選は、自民党の命運がかかる一大決戦。結果によっては政界再編もありえる。古賀、菅両氏の動向には当分注意が必要だ。

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