世界に広がる「低価格マーケット」

執筆者:五十嵐卓2008年3月号

サイドミラーがなくても安い車を、一万円を切る電子レンジを、新興国の「中流層」が強烈に希求している。「低価格化」の波が世界を襲う。 二〇〇八年の年明けから間もない一月十日。世界の自動車業界を「タタ旋風」が襲った。インドの有力財閥、タタグループの自動車メーカー、タタ自動車が小売り価格一台十万ルピー(約二十八万円)の低価格乗用車「ナノ」の実物を公開、九月にも発売する意向を表明したからだ。通常の意味での乗用車としては世界最安値といって間違いない。日本メーカーが低価格を売り物にする軽自動車でも、最安値モデルで一台六十万円はすることを考えれば、ナノの安さは驚異的だ。 タタグループの総帥、ラタン・タタ会長が二年前、「十万ルピー車」構想をぶちあげた時には、先進国の自動車メーカー関係者の間では疑問視する声が多かったが、公約をついに実現した。ただ、ナノの仕様は「乗用車として通用するかどうか、の微妙なレベル」(日本メーカー関係者)にあるのも事実だ。排気量六百二十三CCで、出力は三十三馬力。この動力で、大人四人が乗ると、平地でも加速はかなり緩慢にならざるを得ない。まして坂道であれば、途中で動かなくなったり、オーバーヒートする恐れもあるだろう。

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