4月4日(土)正午、日本最大の豪華客船「飛鳥Ⅱ」は、出港を告げる銅鑼の音、音楽隊のマーチに見送られ、104日間の世界一周クルーズに旅立った。
 このクルーズは、西回りでスエズ運河とパナマ運河を通航して世界一周するもので、最上級のクラスはお1人様2634万円也。最高級のサービスが約束されるだけに、富裕層のリピーターが後を絶たない。

 

「中近東情勢」で予定変更

 ところが、横浜を出港する約3週間前の3月12日、飛鳥クルーズ(ASUKA CRUISE)のホームページに、次のようなニュースが掲載された。「中近東情勢の把握と分析・検討の結果、当初予定しておりました『ムンバイ―アカバ間のお客様の下船』並びに各種オプショナルツアー催行を取り止め、お客様には飛鳥Ⅱにご乗船いただいたままアデン湾海域を航行し、スエズ運河を通峡して地中海に至るスケジュールに変更することを決定致しました」。
「中近東情勢」とは、1月から2月にかけて、シリアで2名の日本人が「イスラム国」によって殺害され、さらに日本人をテロの標的にするとの脅迫メッセージが、ウェブ上で公開されたことを示すと推察できる。
 事前に用意されていた「ムンバイ―アカバ間のお客様の下船」とは、乗客が①ウィーンとドバイ②ドバイ③ドバイとアンマン(ヨルダン)の3つのグループに分かれ、航空機を使用してそれぞれの観光地へ移動したのちに、ヨルダンの高級リゾート・アカバに空路で全員集合し、再び「飛鳥Ⅱ」に乗り込むというもの。
 つまりインド洋西部の海域は乗客ゼロで運航するという、ソマリア海賊の脅威を想定しての特別プランであった。ペトラ遺跡に代表されるように、ヨルダンは世界遺産の宝庫として知られており、主要な寄港地としてアカバ港はこの手のクルーズには外せない場所となっている。しかし、この「安全プラン」をも変更しなければならない「イスラム国」の脅威が新たに発生するとは、誰が想像したであろうか。
 空路でヨルダンを訪問し、アカバ港で「飛鳥Ⅱ」に乗船してスエズ運河を目指すクルーズ客の安全をいかに確保するか――この喫緊の課題に対して船会社が導き出した結論は、情勢不穏なヨルダンを訪問せず、乗客・乗員を乗せたまま、インドの港町コーチンからインド洋、アデン湾、紅海を走り抜け、スエズ運河まで一気に航海するという大胆なルート変更だった。さらに、顧客サービスへの配慮から、ギリシャのロードス島やクレタ島への寄港を新たに盛り込んだ。

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