週刊紙『シャルリー・エブド』襲撃事件の容疑者クアシ兄弟が幼少の頃を過ごしたフランス中部コレーズ県と同じように、その東隣に位置するカンタル県もまた、山ばかりで取り柄に欠ける県である。多くのフランス人にとって、この県を記憶するのは、同名のチーズを通じてに過ぎない。セミハードチーズ「カンタル」は、カマンベールやコンテほどの知名度はないものの、フランス人の生活に深く染みついたおなじみの銘柄だ。

 その県都オーリヤックから東に50キロほど、人口2000人程度の山あいの街がミュラである。

 ミュラは、フランスの中央山塊の死火山帯の中央に位置する素晴らしい景勝地である。明るく開けた斜面に中世の街並みが広がっており、その景観はミシュランの旅行ガイドで2つ星に格付けされている。街中には、歴史的建造物に指定された建築物も少なくない。交通の便が良いとは言い難く、有名観光地として開発されているわけではないが、この地に惹かれてパリから訪れる人も少なくない。

 街並みが途切れるところに鉄道駅がある。その真ん前に、いかにも「駅前旅館」といった風情の5階建てホテル「メッサージュリー」が建つ。

 テロ組織「アルカイダ」のフランスでのネットワークの中心にいたジャメル・ベガルの隔離先が、このホテルだった。

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