携帯電話から自動車まで、およそ電気を必要とする「動く物体」は、二次電池が死活を分ける。電池を制する者がビジネスを制す――。 好むと好まざるとにかかわらず、私たちは「トレードオフ」の世界に生きている。物事の一面を重視すれば他方に目をつぶらざるを得ない二律背反の状態だ。 たとえば原子力発電。深刻な事故が起きれば大惨事を招くリスクを抱えながらも、増加の一途をたどる世界の電力需要を賄うのに不可欠な存在となっている。エネルギー供給能力と事故リスクのトレードオフだが、これは原発のように大掛かりな設備に限った話ではない。「LG電子製の携帯電話で電池が爆発。作業員が死亡」。昨年十一月下旬、韓国発の報道に日本の電機メーカーは騒然となった。携帯電話やノートパソコンなどに使われるリチウムイオン電池は、三洋電機、ソニー、松下電池工業(松下電器産業の全額出資子会社)の日本勢が世界シェアの六割超を占める。報道が事実ならば日本製の電池が死亡事故を起こした可能性は低くなく、その影響は携帯電話やノートパソコンで生じた異常発熱・発火事故の比ではない。数日後、作業員の同僚が建設機械で起こした死亡事故を隠すために嘘をついていたことが判明し、日本メーカーの懸念はひとまず杞憂に終わったのだが、この一件は重要性が高まるばかりのリチウムイオン電池のトレードオフを改めて浮き彫りにした。

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