戦争をより身近に置く時代

執筆者:林吉永2015年9月4日

 先日、ある懇談会で1人のご婦人が次のような発言をされた。

「今年、私の息子は自衛官になりました。家を送り出す時、思わず『ご武運を!』という言葉が口をついて出てしまいました。戦後70年を考え、国会での安保法制審議を見聞きするにつけ、こんなに真剣に、しかも身近に戦争のことを考えるようになっている自分に驚きました」

 時代は変わりつつある。戦争との距離が縮まっていく体感現象が顕われているのである。

 講和条約前、占領軍統治下の日本では、旧軍職業軍人に公職追放令が適用されていた。1950年、朝鮮戦争勃発時、米軍主力の国連軍が戦場に派遣されたあとの国内治安に任ずる警察予備隊の創設は、公職追放を解除し、失業状態にあった旧軍人を公職復帰させるきっかけを作った。名称を変えた自衛隊ではあったが、「敗戦による戦争と軍隊アレルギーというトラウマ」を背負い、「きつい・汚い・危険」の3K職場の1つとされ、何の役にもたっていないと見える自衛官に対する「税金泥棒」の罵声が大きくなった時期もあった。

 そして、世界最強の米軍事力は戦争抑止力となっており、その傘下に居る日本において自衛隊が武器を執って行動する事態など考えられなかった。警察予備隊創設を受け入れた吉田茂の計略は、日本の経済復興を優先し、日本の安全保障をアメリカに依存できる体制に導くことであった。米軍部隊の日本駐留を受け入れた日米安全保障条約は、日本が自ら負担すべき防衛費の軽減につながるとともに日本を戦争から隔離する効果をもたらした。

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