米SEC「昔の威光」いまいずこ

執筆者:2008年3月号

トップは投資家の要求に耳を傾けず、現場の人材は高額給与につられて民間へ流出。泣く子も黙った「市場の番人」がいまや形無し。[ワシントン発]ホロコースト(ナチスドイツによる大虐殺)の生き残りというだけに筋金入りだ。ゼネラル・エレクトリック(GE)だろうが、エクソンモービルだろうが、大企業の経営者を相手に臆するところがない。全米で最も有名な個人株主、エヴィリン・デービスさんは、株主総会が“命”。年間数十件の総会に出席して、経営者に「個人株主の保護」を言い立てる。「私は絶対許さない。言語道断だ」 昨年十二月十三日、デービスさんは米メディア大手ダウ・ジョーンズ社の総会で怒りを爆発させていた。その日は豪メディア王ルパート・マードック氏率いるニューズ社に買収されたダウが受け入れを決議する最後の総会だった――が、話を聞いてみると怒りの対象はダウの経営者ではなかった。米国で市場行政を一手に取り仕切る「市場の番人」、米証券取引委員会(SEC)のクリストファー・コックス委員長である。 十一月二十八日に開いた委員会で「株主は取締役を推薦できるか」という株主提案権の拡大案を退けたSECは、「株主を軽視している」(デービスさん)と全米の投資家から猛攻撃を受けていた。「プロキシー・アクセス」と呼ばれる取締役の推薦権は、日本をはじめ、米国以外の先進国の大半で認められている株主の権利。SECの裁定に当たって機関投資家から「認めるべきだ」という意見書が三万四千通も送られたという。脱線や不規則発言でも有名なデービスさんはダウの経営陣に質問しているうちにコックス委員長の顔が頭に浮かび腹が立ったようなのだが、番人の内部にも憤る人はいた。

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