日本版カジノ法案の本当のところ

執筆者:吉崎達彦2015年10月3日

 あらためて当連載の問題意識を繰り返してみよう。
 今は世界的に生産力が向上したので、昔に比べて少ない人数でモノが揃ってしまう。その分、昔に比べて暇な人が増えている。それから途方もない富裕層もできているのだが、彼らには富と時間を使う適当な方法がない。この状況を放置しておくと、雇用が足りなくなるし、格差も固定するということになりかねない。だからサービス産業を進化させなければならず、そこに「遊び」をビジネスとして育てていく必然性がある。
 例えば、世界的にツーリズムが活況を呈しているのは良い傾向といえる。人の移動は需要に限りがない。究極の平和産業でもあるし、環境に対する負荷も小さい。SNSなどの技術は、旅行に関する情報交換を活発化して、ツーリズムを盛り上げてくれる。特に日本のように高齢化が進んだ先進国の経済活動が、「モノづくりから思い出づくりへ」とシフトしていくのは自然な成り行きであろう。
 いわば「必要性の経済学」の時代が終わり、「遊民経済学」が求められている。そんな中で、ギャンブルは産業として可能性を秘めていると思うのだが、前回の競馬の項目で述べた通り、むしろ近年ではわが国のギャンブル産業は衰退傾向にある。そしてまた、新たなギャンブルを解禁しようとすれば、日本社会や文化が内包するさまざまな禁忌と向き合わなければならない。
 そこで今回はギャンブルの王様たる「カジノ」を取り上げてみる。いや、世界の潮流でいうところのゲーミング産業、と呼ぶのが正しいのかもしれない。果たしてこのビジネス、日本で育て上げることができるのかどうか。その際のメリットとデメリットとは何なのか。その前にこの話、あまりにも誤解が多く広がっているようなので、まずは現在進行中の事態をご紹介しよう。

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