台湾とシンガポールの知られざる“軍事的”紐帯

執筆者:竹田いさみ2008年3月号

「ここまで徹底してやるのか」 成田空港と台北の桃園国際空港を結ぶ台湾のエバー航空定期便、通称「ハローキティジェット」に搭乗するたびに感心させられる。食事・飲み物メニュー、箸入れ、コースター、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、さらに客室乗務員のエプロンに至るまで、人気キャラクターの「キティ」で埋め尽くされている。それだけではない。台湾の置かれた政治的立場を反映してか、「親中派」と目される朝日新聞は搭載しないポリシーを貫いている。日本の新聞をと頼むと、まずは「台湾派」の産経新聞、そして読売と日経が手元に届くといった具合だ。 桃園空港へ滑り込む着陸態勢の機内から視線を地上に向け、「空港周辺のどこかに、シンガポール軍の訓練基地があるはずだ」と独りごつ。中国と国交を樹立し、台湾そのものを国家として認めていないシンガポールが、その台湾に、軍事訓練のための基地を有しているという事実はあまり知られていない。 台北の地元紙によれば、台湾にはシンガポール軍の訓練基地が少なくとも三カ所あるという。両者が軍事協力「スターライト・プログラム」を一九七五年に始動させて以来、かれこれ三十年あまりの歳月が流れている。シンガポールは正規軍を台湾の三カ所に分散配備し、戦車やミサイルなどのフル装備で新兵の訓練などを行なっている。二〇〇七年五月十一日、台湾空軍のF-5F戦闘機が訓練飛行中にトラブルを起こし、台湾北部・新竹県のシンガポール軍基地に墜落して、基地内で作業中のシンガポール軍人三名が死亡、八名が重軽傷を負うという事故が発生した。これは台湾とシンガポールにとって「大事件」である。秘密の軍事関係が白日の下に晒されてしまうからだ。日本でも報道されたが、小さな記事であったため、あまり取り沙汰されなかった。

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