11月16日、クレムリンで招集した軍・治安当局トップから、ロシア機墜落の調査結果について報告を受けるプーチン大統領(中央)(C)AFP=時事

 パリ同時テロ事件を受けて、ロシアはシナイ半島でのロシア機墜落を「『イスラム国』(IS)によるテロ」と断定し、シリア空爆作戦を増強、戦略爆撃機や潜水艦発射巡航ミサイルを投入して戦線を拡大した。仏露両国が共同軍事作戦に着手するなど、IS掃討の国際的枠組みが変わりつつある。ロシアは地上軍派遣の構えも見せており、IS掃討作戦で主導権を握る思惑だ。欧米との連携作戦を通じて、ウクライナ危機後の欧米の経済制裁や包囲網の強行突破を狙っているのは間違いない。

軍の実戦能力をテスト?

 死者224人を出した10月31日のロシア機墜落事件でロシアは、「真相解明には3カ月はかかる」と慎重姿勢だったが、プーチン大統領は16日夜、トルコでのG20首脳会議から帰国した直後、クレムリンでショイグ国防相、ボロトニコフ連邦保安局(FSB)長官、ゲラシモフ軍参謀総長、フラトコフ対外情報局(SVR)長官、ラブロフ外相らを招集し安保閣僚会議を開き、ロシア機墜落は「ロシアに対するテロ攻撃だ」とし、国連憲章の「自衛権」を根拠に報復攻撃を指示した。
 その数時間後、中距離戦略爆撃機、Tu22M3(バックファイア)12機が北オセチア共和国のモズドク空軍基地から出撃し、ISの拠点ラッカを空爆して帰還。サラトフ州のエンゲルス空軍基地に展開する戦略爆撃機Tu95MS(ベア)6機とTu160(ブラックジャック)5機がアレッポなどの攻撃目標に対し、シリア領空外から長距離巡航ミサイル34発を発射した。戦略爆撃機の攻撃は18日も行われたが、一部はイラン領内に落下したと伝えられた。
 17日には地中海に展開する海軍新型潜水艦「ロストフナドヌー」がラッカに対して巡航ミサイルを発射した。ロシア軍が潜水艦発射巡航ミサイルを実戦使用したのは初めて。戦略爆撃機による空爆は、ソ連軍のアフガニスタン侵攻時にも行われたが、新生ロシアでの実戦投入は初めて。「いずれもロシア軍の実力を誇示するPR効果と実戦使用能力を試す狙いが強く、持続的な軍事的効果は少ない」(ノバヤ・ガゼータ紙のフェリゲンガウエル記者)とみられている。

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