この段階で、正式に警視庁戸塚署に被害届を提出した。

 捜査を担当したのは、組織犯罪対策課。筆者の場合、フォーサイト以前に所属していた別の媒体編集部も含め30年ほどの記者としての取材経験の中で、比較的経済事件を多く手掛けてきたため、取材対象者に暴力団関係者も含まれることを想定してのことだった。

 

決め手は「音声データ」

 犯人特定にさほどの時間はかからなかった。捜査照会で携帯電話の名義を割り出し、筆者からは、これまで取材執筆した事案に関する差し支えのない説明をしたところ、三田の存在が明らかになったのだ。脅迫電話に使った携帯電話が、三田本人の名義だった。通話記録も捜査照会し、裏が取られた。名乗らずにいながら自分名義の携帯電話を使うなど、すぐに「足」のつく稚拙さである。

 ただし、それだけでは名義人が電話をしたことの証明にはならない。盗むか拾うか借りるか、別人が使った可能性もある。

 そこで決め手となったのは、音声データ。問題の記事の取材時、筆者は三田と相対のうえインタビューしていたが、本人の同意のもと音声を録音していた。その録音データと脅迫電話の音声を聞き比べ、筆者は三田であると確信した。さらに捜査班は、声紋鑑定も行ったと聞く。同時に、三田自身の行動確認や周辺関係者の捜査も行われた。この中に三田と思われる人物はいるかと、複数の男の写真を並べられて確認を求められたこともある。そうした根気の必要な細かい作業を続けることで、捜査班は物的、状況的証拠を着々と積み上げていった。

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