北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は2016年1月1日の正午(日本時間午後零時半)から約30分間、肉声で「新年の辞」を発表した。濃い黒縁の眼鏡を掛けての演説で、その若さに似合わないしわがれ声と合わせて、故金日成(キム・イルソン)主席を真似たような演出だった。
 通信社の記者をしていた時から、毎年、この「新年の辞」や、金正日(キム・ジョンイル)総書記時代の労働新聞などの「新年共同社説」のどの部分に注目して報じるかは、頭を悩ますところであった。韓国の聯合ニュースは「北南対話・関係改善に努力」と報じ、朝日新聞はネット版では、これと同じように「金正恩氏『北南対話のために努力』」を見出しに取ったが、3日付の紙面では「祖国の統一死活的課題」とした。毎日新聞は「核開発触れず 周辺国に配慮か」、読売新聞もネットでは「経済再建を強調」を見出しに取ったが、3日付紙面では「多様な攻撃手段を開発」とするなど各紙の見方が割れた。
 各メディアの見出しの取り方が割れたというのは、今年の「新年の辞」には、昨年の「新年の辞」にあった「雰囲気と環境が整えば、最高位級会談も開催できない理由はない」というような踏み込んだ発言がなかったためだ。
 これは北朝鮮が今年5月初めに36年ぶりの党大会を開催することと関連している。画期的な提案や、新たな方針は党大会に取っておかなくてはならない。その意味で、今年の「新年の辞」は5月の第7回党大会を意識した前奏曲であり、控え目な内容であった。

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