華僑や華人の存在に関心を持つようになって35年ほど。この間、東南アジア・中国・台湾・香港・マカオはもとよりオーストラリア、イギリス、オランダ、ベルギー、インド、ネパールなどにも足を運び彼らの日常に接し、彼らのネットワークの一端に身を置き、彼らの国境を越えた国際的集会にも何回か参加し、そこで得られた資料や見聞などから何本かの論文を綴り、何冊かの本も出版した。

 この間、「華僑も華人も海外在住の漢族、あるいはその末裔であり、華僑とは中国公民で華人とは中国公民の地位を捨て他国の国籍を取得・保持する者」を基本姿勢としてきた。

 だが最近になって、それが単なる思い込み、あるいは思い違いではなかろうかと考えるようになった。それというのも、『華僑華人与西南辺疆社会穏定』(石維有・張堅 社会科学文献出版社 2015年9月)を手にしたからである。

『華僑華人与西南辺疆社会穏定』社会科学文献出版社 2015年9月刊

 著者は共に広西チワン族自治区出身の厦門大学専門史博士。石維有は広西玉林師範学院と広西師範大学で、張堅は広西師範大学で教鞭を執る。表紙の左肩に「中国社会科学院創新工程学術出版資助項目 国家社科基金重大特別委託項目/西南辺疆歴史与現状綜合研究項目・研究系列」と記されているところから見て、中国政府系最大のシンクタンクである社会科学院から新分野と認定され、資金助成を受けた研究と見做すことができそうだ。言い換えるなら、雲南・広西・四川・チベットなどを包括する西南地域を歴史的視点から見直して現状を分析し、さらに国境を越えた周辺地域と一体化させて地政学的視点から総合的に捉え直そうという“野心的試み”とも言えるのである。

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