「児島惟謙」がいなかった国

執筆者:徳岡孝夫2016年1月11日

 どこにその境界があるかと問われてここだよと示すのは難しいけれども、人がそうであるように、品格のある国とない国がある。

 一昨年4月のことだが、韓国南西部の海で集団旅行の高校生を乗せたフェリーが転覆・沈没し、300人近くの死者を出した。ソウルでは、救助その他の指揮を執るべき朴槿恵大統領の所在がハッキリせず、元側近の男と密会していたという噂が立った。
 中国の古諺に曰く、舌(つまり噂)は、4頭立ての馬車でも追いつかないという。ソウル政界のヒソヒソ話は、たちまち「その筋」の間で公然の秘密になって出回った。
 話は「朝鮮日報」のようなソウルの有力紙にも出たという。

「産経新聞」前ソウル支局長、加藤達也氏は、その風聞を捉えてコラムに書いた。
 加藤氏は裏付け取材をしたか? しなかったのではないかと私は推測する。ドアの内側での男女の間のことは、プライバシーに属し、何者にも侵害されない。
 だが加藤氏は、朴大統領と男性の間がアヤシイなどと書いたのではなかった。ただ大事件があるのに2人の所在がハッキリしなかったと一部の韓国紙が書いている、と書いた。しかもストレート・ニュースとしてではなく、裏付け不可能なまま世間に流れる「半ニュース」を扱うコラムに書いた。韓国検察は、加藤記者のこの行為を大統領に対する名誉毀損だと判断して告発、起訴した。しかし裁判所は、加藤記事は「言論の自由」の範囲内だと判断し無罪を言い渡し、それは確定した。すべて御存知の通りである。

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