通称「ダラプリム」と呼ばれる、62年前に開発された薬剤をご存じでしょうか。これは妊婦が感染すると死産や流産を、あるいは免疫力が低下しているエイズ患者や一部のがん患者などが感染すると重篤な脳症から場合によっては死に至るというトキソプラズマ症や、高熱や頭痛を引き起こす感染症であるマラリアの治療薬として利用されています。

 昨年9月、その薬剤に関するニュースが全米の注目を集めました。米製薬会社「チューリング医薬品(Turing Pharmaceuticals)」の32歳のCEO(最高経営責任者)マーチン・シュクレリ氏が同年8月、ダラプリムの製造販売権を買収し、なんと、一晩で薬価を1錠13.50ドル(約1620円)から750ドル(約9万円)へ、実に55倍以上も引き上げたのです。米メディアはシュクレリ氏を「米国で最も嫌われる男」と呼んだほどでした。

 ところが、元々がヘッジファンドマネージャーであったシュクレリ氏は、人々の注目を浴びたがる究極のナルシストとも言われ、傲慢な態度でテレビに出演したりソーシャルメディアに情報を発信したことで、皮肉にも、連邦捜査局(FBI)や証券取引委員会(SEC)の調査のターゲットになりました。その結果、昨年末の12月17日、彼が以前所有していた会社が「ポンジ・スキーム」と呼ばれる投資詐欺を行っていた容疑で逮捕されました。その事件が契機となり、再び米国で薬価高騰の問題に関心が集まっているのです。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。