米国の外交政策研究誌『Foreign Policy』(2016年1月15日)に掲載された、日中戦争が起こった場合、日本が5日間で敗北するという米ランド研究所のシミュレーションに関して、空自元空将の織田邦男氏は、「シミュレーションの詳細が不明なため、この評価は難しい。複雑な要因が入り乱れる国際社会の中で、こんなに単純にはいかないというのが率直な感想だ。それより、ランド研究所は今、なぜこういう衝撃的な結果を発表したのだろう。筆者はその思惑の方に興味をそそられる」と指摘している(JB PRESS 2016年2月4日「あまりに稚拙な『日本が5日で敗北』シミュレーション 冷戦時のデジャブ、『コミットメント・パラドクス』の罠にはまる?」参照)。
 2009年、米議会国防報告で中国の対米戦略「A2/AD “Anti-Access/Area Denial”」が明らかにされてから、アメリカの対中戦略に採用されたのが「ASBC “Air Sea Battle Concept”」である。日中戦争はその一部を成すから、アメリカにおいて軍との関係がことのほか密接なランド研究所が「日中戦争至日本敗戦」のシミュレーションを行ったことに何らかの企図が在ると考えるのは的を射ている。しかし他方で次のように考えると、対中戦争の蓋然性が極めて低いことも確かである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。