難民・移民をめぐる事件が相次ぐ中で、国民の態度は硬化し、各国の難民政策が厳格化されるのは自然である。
 寛容政策を貫こうとしたメルケル独首相であったが、大連合政権のキリスト教民主同盟(CDU)/キリスト教社会同盟(CSU)も社民党(SPD)も、早期の難民対策の強化で一致している。SPD党首のガブリエル副首相は「あらゆる国際法の可能性を駆使して、犯罪経歴のある難民申請者を母国に送り返すべきだ」と主張した。

失意のうちにドイツを去る難民

 ドイツは1月末、制限付きで滞在を許可された一部難民に対しても今後2年間家族呼び寄せはできないこと、マグレブ3国(モロッコ・チュニジア・アルジェリア)は「安全な出身国」とみなされ、これらの国からの難民申請者は速やかに国外退去を命ぜられること、執行猶予付きでも有罪判決を受けた難民申請者を送還すること(現行法では3年間の実刑判決の受刑者が対象)、などを定めた法律を導入せざるを得なかった。
 実際にドイツでの生活が期待外れで、夢破れたドイツを出国した難民たちもいる。出国者の大半はバルカン出身者といわれるが、「約束の地」で住居と事業資金を得られることを期待した難民たちは、その夢がかなうには長い年月がかかるという現実を前に帰国した。2014年に1万3000余人だった出国者数は3万7000余人に増えている。象徴的にテレビ画面で扱われた女性は「尊厳のために私は自分の国で死ぬわ」と叫んだ。
 フランスでは、「テロ容疑のある二重国籍者の国籍剥奪」(テロ犯罪者の仏国籍剥奪)のための憲法改正論議で、与野党ともに国論は分裂した。この法案を人権蹂躙と批判した海外地域圏ギアナ出身の人気女性政治家トビラ法相の辞任劇にまで至った。2月上旬、同法案は下院を通過した。憲法を停止して大統領が一元的に治安対策を行う「非常事態法」(11月の同時多発テロ事件後に施行)の「恒常化」が話題となり、テロ防止の名のもとに警察・内務省の独善的な捜査内偵活動が合法化される動きが強まっている。自由と人権という、フランスの国の根幹が揺らいでいる。

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