安倍晋三首相は2月20日、民放ラジオ番組に出演し、日露関係について、「戦後70年を経ても領土問題が存在し、平和条約が結ばれていないのは異常だ。プーチン大統領と私はこの認識で一致しており、何らかの形で問題解決が不可欠だ。それを実現するため、私がロシアを訪れ、その後大統領に訪日してもらいたい。領土問題は難題であり、双方にとって問題解決にはリスクが伴うが、私とプーチン大統領の間では、信頼関係を発展させることができた。私は彼を全面的に信頼している。大統領も問題解決がロシアの発展に望ましいことを認識していると思う」と従来より踏み込んで発言した。辛坊治郎氏の番組で、日本の新聞は伝えなかったが、ロシアのタス通信が詳しく紹介した(発言はロシア語からの訳)。それにしても、愛国主義が蔓延するロシアが領土問題で強硬姿勢に出るのに、ここまで期待値を釣り上げて大丈夫なのか。永田町の一部には、首相は「2島プラスアルファ」で手を打つ、との憶測が出ている。

安倍首相の「腹案」

 昨年末の12月22日付読売新聞朝刊に、北方領土問題で奇妙な記事が掲載された。「日露の行方」という3回連載の冒頭、昨年11月15日にトルコでのG20首脳会議中に行われた日露首脳会談の1コマだ。
 それによると、安倍首相はプーチン大統領に対し、大統領がかつて柔道にたとえて言及した領土問題の「引き分け」に言及して、「腹案」を披露した。大統領はニヤッと笑みを浮かべ、「それは一本じゃないか」と冗談めかして発言したという。
 エピソードとして紹介されただけだが、事実なら、日本の首脳がロシア大統領に対し、領土問題で「腹案」を提示したのは、1998年に橋本龍太郎首相がエリツィン大統領に「川奈提案」を示して以来のことだ。択捉島と得撫島の間に国境を引き、当分の間ロシアの施政権を認める――とする川奈提案をロシアは拒否しており、首相の「腹案」はそれ以来の提案となる。本来なら独立した記事で大きく伝えるべきだろうが、読売は追加報道をせず、他のメディアも報じなかった。
 この時の会談は30分行われた程度だが、2人は会議場の隅のソファーでも話し込んでいる。報道が事実なら、12回目となる顔合わせで2人が親密になり、平気で「腹案」を披露できる関係になったことを意味する。首相が言うように、両首脳間で「信頼関係が発展」していることになる。会談では、首相が16年春にロシアの地方都市を訪れ、非公式首脳会談を行うことが決まった。
 日本の新聞は「大統領来日、来年以降に」「率直な意見交換」などと報じたが、官邸は日露外交の詳しいやりとりを公表していない。平和条約交渉をめぐる日露外務次官級協議が不毛の議論を続ける一方で、首脳同士では先行した秘密のやりとりが行われている可能性がある。

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