なぜスーダンで働くのか

執筆者:西野ゆかり2008年4月号

[ボー(スーダン)発]永田町で政策秘書として働き始めたのは二〇〇一年九月十一日の米同時多発テロ事件の二週間後。にわかに外交安全保障に注目が集まる中で、テロ対策特別措置法やイラク特措法に関する国会質問を作る仕事にやりがいを感じる一方、日本の政治に限界も感じた。今でも覚えているのは、自衛隊のイラク派遣をめぐる議論の閉塞感だ。はじめから「落としどころ」を意識しての議論は、深まることも、新たな可能性が提示されることもなく、消化不良のまま閉じられた。 言うまでもなく政治の場での行動原理は国益だ。「イラクの人にとって」という問題設定は、建前あるいは修辞としてはともかく、現実的な政策に反映させるには現場の情報が圧倒的に足りない。当時の私たちの情報源は外務省ならびに地域専門家二名のみ。現在私が勤務するピースウィンズ・ジャパン(PWJ)をはじめ日本のNGO(非政府組織)も現地で活動していたが、情報は不十分だった。 政治は大局的に物事を決めているようでいて、こと外交安保に関しては、現場の現実に対して何ら影響を与えないことの方が多いのではないだろうか。 逆に、昨春から東アフリカのスーダンに駐在して見えてきたのは、現場に最も近い場所で仕事ができるNGOならではの醍醐味だ。国益や省益、自社の利益のためではなく、現地の人々のニーズを第一に考えて計画を作り、一定規模の(PWJのスーダン事業の場合、事業費は年間約一億円、受益者数は約八万人にのぼる)事業を直接行なえるのはNGOの強みである。

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