2022年秋に予定される習近平「引退」を睨む権力闘争レースで、胡錦濤グループの有力若手とみられている陸昊・黒龍江省省長(党委員会副書記を兼任)の「失言」が波紋を広げている。
 今月6日、全国人民代表大会(全人代)の記者会見の席上、「賃金未払いは一切ない」と発言したところ、地元の炭鉱労働者の怒りが爆発した。「陸昊はヌケヌケと嘘をついている」(中国語では「陸昊睜眼説瞎話」)といった横断幕を掲げた数千人規模のデモが、黒龍江省の炭鉱都市、双鴨山市で発生しインターネット上でもデモの画像、映像が拡散。陸昊は、発言撤回に追い込まれ、賃金問題への対応を約束せざるをえなくなった。

炭鉱労働者のデモ。「陸昊はヌケヌケと嘘をついている」

共青団トップ役職「中央書記処第1書記」

 労働者の属する「龍煤集団」は、黒龍江省最大の国有企業で、旧満州にあたる東北部で最大の石炭企業であり、従業員数は20万人を超える。しかし、中国経済減速の煽りを受け、生産過剰を抱えて業績が悪化し、昨年末から賃金の未払いが深刻化していたとされる。
 石炭、石油といった資源に過度に依存する黒龍江省は、中国全土でも経済成長率の落ち込みが最も顕著な地域であり、炭鉱労働者のリストラ、再就職を含めた石炭産業の構造改革は、黒龍江省のナンバー2を務める陸昊にとって喫緊の課題だ。しかし、自らの失言で大きく躓いた格好だ。
 ポスト習近平レースでは、40代で政治局委員(トップ25)就任を果たした胡春華・広東省党委書記が本命候補と目されて群を抜く存在であり、2017年秋の党大会での政治局常務委員(トップ7)入りを目指している。中央委員(トップ200)では、陸昊や周強・最高人民法院(最高裁判所)院長らの動向に注目が集まっている。
 これら3人に共通する経歴が、中国共産主義青年団(共青団)のトップである中央書記処第1書記だ。若手エリート党員を組織する共青団は、胡錦濤前国家主席の有力な権力基盤であり、その第1書記には胡錦濤の後に、李克強首相(党序列2位)→周強→胡春華→陸昊の順で就任してきた。共青団グループの次世代ホープの1人である陸昊の失点は、胡錦濤派にとって痛手といえる。

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