これから趣味を持ちたい人へ

執筆者:成毛眞2016年4月7日

 高所恐怖症である。子供の頃からそうだった。訓練すれば克服できたのかもしれないが、もちろん私はそのような努力をしない。最近になって、恐怖症は治癒できないと聞いて、無駄な努力をせずに済んで良かったと胸を撫で下ろしている。
 ホッとしながらも、後悔していることもある。それは、これまでの人生で一度も本格的なジェットコースターに乗らなかったことだ。高所恐怖症であるから、ジェットコースターの悪口を言おうと思えばいくらでも言える。それでも乗ってみたかったと今しみじみ思うのは、乗ることが許されない年回りになってきているからである。どんなにお金を積んでも体を鍛えても、年齢制限には勝てない。
 富士急ハイランドのFUJIYAMAは62歳まで乗れるそうだが、初心者が乗るには大物過ぎる。与しやすいものから慣れていこうとしていたら、あっという間に時間切れだ。実に残念だが、ホッとしてもいる。これを読んで誘ってくる人が現れないことを祈るばかりだ。
 それでもジェットコースターが未練の残る体験だとすれば、趣味で心残りなのが盆栽である。30代くらいからやっておけば良かったと後悔することしきりである。30歳のときに始めていたら、還暦の私の手元には今、30年ものの松や梅があったに違いないのだ。
 盆栽は、時間のかかる趣味である。時間を重ねるのは、懐具合や体の調子とは無関係に、誰にでもできることだ。だが盆栽のような蓄積型の趣味は誰にでもできるようでいて、積み重ねることの価値に若いうちから気付くという才覚が欠かせないものでもある。

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