トランプへの「ご進講」で戦々恐々のCIA

執筆者:春名幹男2016年5月16日

 米インテリジェンス・コミュニティにとって、極めて頭の痛い仕事ができた。秋の大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントン前国務長官との対決が確実となった不動産王ドナルド・トランプ氏(69)へのご進講である。 
 7月の党大会で正式に共和党大統領候補指名が決まれば、米情報機関は彼に対して定期的に、機密情報を含む世界情勢の説明を行わなければならなくなる。現実には、 米政府情報機関トップの国家情報長官(DNI)オフィスおよび米中央情報局(CIA)から、分析官がトランプ氏の事務所などに出向いて情報説明を行うことになる。

情報漏れの危険

 民主・共和2大政党の大統領候補に情報ブリーフィングを行う制度は1952年、当時のトルーマン大統領が決めた。
 1945年4月当時副大統領だったトルーマン氏は、急死したルーズベルト大統領の後継として急遽、大統領に就任したが、それまで原爆開発の重大な事実を全く知らされておらず、その後間もなく重大な決断を迫られた。大統領は重大な事態に備えて、常に十分な準備をしておく必要がある。トルーマンは自分の苦い経験から、大統領任期末を前にこうした制度を始めた、といわれる。
 民主、共和両党の候補者には全く同内容のブリーフィングが行われることになる。
 しかし、これまでの2大政党の大統領候補は公職経験のある、いわば政治のプロばかり。クリントン氏は、上院議員として、あるいは国務長官として、さまざまなインテリジェンスのブリーフィングを受けてきた。「民主社会主義者」を名乗り、クリントン氏を最後まで苦しめるバ-ニー・サンダーズ氏や、既に指名争いから脱落した共和党のテッド・クルーズ氏もマルコ・ルビオ氏にしても、上院議員として守秘義務を負わせられて、情報機関からのブリーフィングを受けてきた。
 トランプ氏はワシントン・ポスト紙とのインタビューで、秘密情報ブリーフィングを受けることに強い期待を示しており、制度の公平性から見ても必ず実行されるだろう。
 だが、トランプ氏のように、民間ひと筋で来た候補者には初めてのこと。しかも、厄介なことに、トランプ氏自身は元々「放言癖」があり、機密情報を口外して自分の政治目的に利用しかねないような人物だ。彼がプーチン・ロシア大統領について好意的な見方を明らかにする一方、北大西洋条約機構(NATO)や日韓などの同盟諸国に対して、より厳しい発言をしてきたことも米情報当局は注目している。

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