国際報道を身近にするには

執筆者:成毛眞2016年6月16日

 NHKのBS1で放送されていた『国際報道2015』がリニューアルし、『国際報道2016』になった。相変わらず、この番組でしか知り得ないようなことを、惜しげもなく報じてくれるいい番組だ。あまりにいい番組なので、他局でこれを真似るものが出てきても良さそうなのだが、そうはならない。理由はいくつかあると思うが、そのうちの少なくない部分は、キャスター不足が占めているに違いない。
 キャスターに求められるのは、よどみない滑舌、不快感のないルックス、大物を前にしても恐れず核心に切り込める胆力、それから豊かな専門知識である。アメリカには、CNNからABCへ移籍したクリスティアン・アマンプール、逆にABCからCNNへ移ったアンダーソン・クーパーや航空機事故に強いリチャード・クエストなど、頭の回転だけでなく声もいいキャスターが揃っている。
 残念ながら日本には、こういった人材が不足している。アカデミアには専門家もいるのだが、あまり表に出たがらないようだ。テレビ局が外部の専門家を登用せず、自社のアナウンサーや記者を使おうとするからでもあるのだろう。稀に外部に人材を求めても慣れていないものだから、経歴詐称に気付かなかったなどということが起こってしまう。
 国際報道ができるキャスターを育てるには、国際報道に関心を持つ人の数を増やし、裾野を広げる必要がある。裾野を広げれば自ずと頂が高くなることは、科学技術などほかの分野で証明されている。国際報道が身近になれば、優秀なキャスターが育つだろう。
 裾野を広げるツールとしてはまず雑誌が考えられるが、今、日本で手軽に読める国際情報関連の雑誌というと、新潮社の『フォーサイト』と講談社の『クーリエ・ジャポン』くらいしか見当たらない。しかもどちらも、雑誌とはいえ、有料電子版だ。その辺に置いてあったものをふと目にして興味を抱くという効果は期待しにくい。またしても海外を例に挙げると、アメリカには『フォーリン・アフェアーズ』、イギリスには『エコノミスト』などがあるのに比べ、その頂は低いとしか言えず、したがって、裾野も狭い。
 裾野の狭さは大問題だ。比較的読みやすい雑誌や書籍の多い科学技術の分野でも、エセ科学やトンデモ技術を流布する人、それに騙される人は後を絶たない。やはり無知は罪であるから、知らしめる努力を怠るべきではない。

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