「五輪で国威発揚」が裏目に出るロシア

執筆者:名越健郎2016年7月28日

 ロシアの国家ぐるみのドーピング違反問題で、国際オリンピック委員会(IOC)は8月5日に迫るリオデジャネイロ五輪からロシアを全面除外する処分を避け、参加の是非は各競技ごとの国際連盟に委ねることを決めた。世界反ドーピング機関(WADA)や米独など各国の反ドーピング機関はIOCの決定を非難したが、IOCはロシアを全面排除して欧米との冷戦が激化する責任を負うことを回避したかったようだ。IOCのバッハ会長とプーチン大統領の個人的親交も影響した可能性があり、ロシアとしてはまずまずのシナリオとなった。

ドーピングはスパイと同じ?

 ロシアのメディアはドーピング問題では愛国主義一色で、「ロシアを五輪から締め出そうとする米国の陰謀」といった反発ばかりだ。国家ぐるみの組織的違反行為を米紙に暴露し、米国に滞在中のロドチェンコフ元ドーピング検査所長は「裏切り者」「嘘つき」「脱落者」と糾弾されている。

 プーチン大統領もWADAについて、「スポーツへの政治介入であり、ロシアに地政学的な圧力をかけ、悪いイメージを作り出す道具に使った」と批判。一方で、外国専門家を加えた独立機関をロシア五輪委員会に設置すると提案するなど、火消しに追われた。しかし、ドーピング問題の背景に、プーチン政権の国威発揚路線やなりふり構わぬ国益重視があるのは間違いない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。